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People Management 用語解説
太田秀一 「役員補佐とは」
改訂日: 2002年11月19日

会社を大きく変えねばならぬとき、
「役員のように考える中堅」が社内各層に多数いると、
心強いですね。

その供給源とも(奇しくも?)なったのが当制度。

制度としては、ややアングラで、
ビジネス書や学術論文はもちろん、
正規の人事マニュアルにも、ふつう載ってませんし、
そもそも正規の人事部ではなく、
それとは完全に別個の某部門が handle する「裏」マター。

アングラだけどもコアでもある、そんな制度です。


[1] 補佐の任務

役員補佐とは、いわば「エグゼクティブ徒弟制度」である。 各現場の若手を、短期間、役員に付け、経営現場を体験させる。 海外企業によくある幹部育成法だ。

その仕事は、伝統的日本企業でいう「秘書役」の仕事とは、 まったく異なり(秘書は秘書で別にいる)、「役員の判断・指示を、支援・代行すること」。

  1. ボス宛の膨大な書類をすべて読み、理解し、優先順位にしたがって、 部長以下に、然るべき行動を依頼すべく、コメントを記入し、

  2. そのコメント記入した書類を複写して、「正」を依頼相手、「写」をボスに流す。 当然、その優先順位や依頼コメントが的はずれだと、ボスからも怒られる。これで

    • ボスの耳目に触れる情報を全て自分も読むことで、状況感覚が掴める

    • ボスの優先順位が分かってくる(補佐が賢ければ)

  3. 悪いニュースをボスに知らせる   (解決策も示す)

  4. ボスの間違いを指摘する      (対案も示す)
    (ただし、できるだけ人がいないところで)

  5. ボスと会議に同席し、正しく「頷く」  (後述)

これらの仕事を通じ「役員のように考える若手」が育つ。ボスの「頭の中身」が 丸々コピーされる制度だ、と考えると分かりやすい。

たとえば補佐は、ボスの出る会議には、すべて同席する。そこでボスが、 なにかの件で、なにか決定を口にした瞬間、それが「正しい」と思ったら、 補佐は大きく頷く。これが上記「5」である。

実は、この動作が、ボスにとっては「最終チェックの一助」になっているから、 責任は重い。愚かなイエスマンよろしく首だけ動すと、怒られる。 ボスの言ってることが「間違いだ」と思ったら、頷いてはいけないのである。

要は、これの訓練だ。

    「ボスと同じ課題を、ボスと同じ情報をもとに、ボスと同時に、ボスの面前で、 ボスの力を借りずに、自ら考え、間違えばボスに怒られる」

つまり「書物ではなく現場から、それも高密度・高頻度の判断・指示の実践から、 人々は多くを学べる」。この洞察から生まれたのが、当制度である。


[2] MBAと比べると(ご参考)

この「経営現場」を、擬似的に量産してくれる便法が、世のビジネス・スクール。 だが、この便法には、役員補佐制度にはないメリットもある。

  • 「試験」があるので、一定の品質が保証される。

  • 「学ぶ仲間」がいるので、社外人脈が広がる。

  • 「自社固有のお作法」から自由になれるし、 補佐につきものの「権限と責任」がないので、 応用力が育ち、新規事業の立ち上げなどに向く人材が育つ(かも)。

  • 選ばれてるケース教材に「転換期の経営現場」が多いので、 会社が危うくなったとき実力が発揮できる(かも)。

おそらくミドル10年、そして役員補佐半年分ほどに匹敵する量の価値が、 そして彼らとは異なる質の価値が、MBAにはあり、その三者は、相補的な 関係に立つだろう。


[3] 補佐(制度)の成功条件

では、この制度の成功条件は何か。数件の事例と意見をまとめると、ほぼ次の通り。 これらの条件が満たされないと、三流の補佐経験者が量産されてしまうようだ。

    (1) ボスと補佐の両方が「有能かつ善良」であること。

      1.1) うち「有能」とは何か。次の4項だと思う( 詳しくはここ

      • 「大きな問題」に気づく能力であり、それを解決するための
      • 「戦略眼」であり、それを周囲と共に行うための
      • 「リーダーシップ」であり、そして
      • 「不測リスクへの対応力」である。

      これら4能力は、「経験」にも比例するが、 「モデリング能力」(詳しくはここ)にも比例するようだ。 若い補佐は、後者でがんばろう。

      1.2) また「善良」とは何か。

      • まず「度胸」。 イザというとき会社に「厳しいこと、正しいこと」を言い、 さらには「首にするなら、してみろ」と言うためである。
      • そして「正直さ」。 司令官や補佐が1つ嘘をつけば、その部下2千人も1個ずつ嘘をつくようになる。 こうして出入りする情報は次第に乱れ、そしてイザというとき、 その組織はかなり深い傷を負う。
      • したがって「論理精神と実証精神」を。これで人のウソを見抜こう。
      • ただし「実用精神」でバランスを。 決断が100倍早くなるなら、論理性や実証性のチェックは7割くらいで やめたほうがいい。
      • 最後に「秘密が守れること」。なぜ当項が大事なのかは言えない。

    (2) ボスは極力、自分の思考プロセスを「外部化」すること。

    • 平素の会議で自分の所見を大量かつ明快に述べるのは当然だし、

    • 歩いてる最中も「独り言」を補佐に聞かせること。

    補佐は補佐で、これら無数の断片を、頭の中で組み立てて、 ボスの思考プロセスを推定すること。 ここでも1.1)の「モデリング能力」が役立つ。

    (3) ただし補佐は、「よそのボスたちからも幅広く」学ぶこと。

    • 自分のボスが、他のボスや、社長や、本部長たちと討議をしている。 これを見れば、 複数のマネジメントスタイル、複数のリーダーシップを学べるし、 同じ現象に下される、複数の解釈、複数のアクションプランを学べる。

    • そんな観察機会に恵まれているのだから、補佐は、

      • 「比較」すべきだ。 今回は何故、この解釈、このプランが選ばれたのか? 別の案件ではどうか?

      • 「拡張」すべきだ。 自らのマネジメント・スタイルやリーダーシップ・スタイルの レパートリーを、である。

      • 「合成」すべきだ。彼らの複数の能力や見方を、である。

        もともと「会社のマネジメント能力の総体」は「一匹の大きな獣」のようなもので、 その四肢は、複数の役員たち管理職たちが、分有している。たとえば、 左前足は役員 A 氏が、右前足は同 B 氏が、右後足は同 C 氏が、 というように。

        そして実は、この「獣」の「全体像」こそ、 会社が補佐に最も発見させたがっている「隠されたカリキュラム」なのではないか? それを任期中に発見し、任期後も道標にできたら、とても素晴らしい。

        しかも状況や主題が変われば、会議の参加者が入れ替わるように、 この "Curriculum" は相貌を一変させるのであり、だからこそ補佐は 「隠された一個の大きなカリキュラムを発見する」というより、 人々の言動の諸断片から、日々、「多様なカリキュラム群を合成する」 ことになるのではないか。とくに変革期では。

    (4) 会社の変革期に補佐をすると、とても勉強になる。そのときは、

    • 好運に感謝し、ボスも補佐も日々全力で、 自社の「問題と対策」を考えよ。

    • 同様の危機感が、麾下の課長以上にも共有されており、 彼らから協力が得られれば、すごく有り難い。 彼らへの感謝を決して忘れないこと。

        (補佐経験者が各層にいれば、この好循環が起きやすい)

    (5) 会社の安定期に補佐をすると、あまり勉強にならないし、 下手すると「単なる茶坊主」が出来上がる。そんなときは 通常の補佐業務以外に、何らかの「特命事項」を与えること。 たとえば

    • 新規事業絡みの重要イベントを手伝わせる

    • いくつか臨時プロジェクトのサブリーダーをさせる

    • テーマを与えて論文を書かせる
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Shuichi Ohta, 太田秀一 ************************************* /

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