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太田秀一用語解説 「ビジネス・モデル」


◆ 酒屋の譬え

日本の酒屋さんは伝統的に

    「単価の安いビールで集客し、日本酒で利益をとり、 ウィスキーで売上を稼ぐ」

あるいはハイテク業界ですと、

  • インテルは「製品開発スピード」が強み、

  • IBMは「顧客の経営課題に直結する提案力」が強み、

  • デル・コンピュータは「夜中でも親切対応のサポート力」が強みです。

要するに、

    「ビジネスモデルとは、集客・利益・売上の源泉であり、 ライバル会社と自社を分かつ重要な強みである」

とまずは考えましょう。

ただ、これだけですと、やや素朴すぎます。少し拡張しましょう。


◆ 國領図式

当分野で著名な KBS 國領先生 『オープン・アーキテクチャ戦略 』によれば、

    「ビジネスモデルとは、

      (1)誰にどんな価値を提供するか、

      (2)そのために経営資源をどのように組み合わせ、その経営資源をどのように調達し、

      (3)パートナーや顧客とのコミュニケーションをどのように行い、

      (4)いかなる流通経路と価格体系の下で届けるか、


    というビジネスのデザインについての設計思想である」
いいですね。さっきの「酒屋の喩え」より具体的です。

  • 上記の「酒屋の譬え」で使った「強み」という 概念を、「価値+資源」に下位分解できます。たとえば上例の デル・コンピューターの「夜中でも親切対応のサポート能力」という「強み」は、 次の2つに分解できます。

    • 「あー、資料提出が明朝なのに、パソコンが壊れてしまい、さぁ私は大ピンチ。 この窮状から脱出できたら、面目も立つのになぁ」という「価値」
    • 「顧客心理とパソコンの双方に精通した、有能なサポート要員」(People)という「資源」。

  • 上記の「酒屋の譬え」ではカバーしてなかった「流通経路」や「対パートナー コミュニケーション」という要素が盛り込まれ、「業界バリューチェーン」への視点が 入りました。

    これは、非常に重要です。というのも一般に、ビジネスモデルは「自社1社だけ」で 考えることもできますが、それを大きく変えるべきときには、「自社+他プレイヤー群 を含め、複数企業にまたがって」考えた方が良いからです。

  • それに「流通経路と価格体系」というのは「マーケの4P」の一環ですね。 こうしてマーケティングという個別分野のキー概念を援用することで、 やや一般性は失うものの、具体性は増します。

ちなみに、同先生は、今後は多くの企業のビジネスモデルが「オープン・ アーキテクチャー」に移行するだろう、と言っておられ、その動きの底には、 次の3つの基本作用素がある、と説かれます。

  1. 機械系システムの能力向上と人間の認知限界

  2. 情報の非対称性の逆転と顧客の発信する情報をビジネス化するモデル

  3. 情報の非物財的な特性の表面化

この「3つの基本作用素」から導かれる「3つの新しいビジネスモデル」とは 何でしょうか? 気になる方は、先生の 『前掲書』を、ご一読下さい。


◆ 太田図式

ではここで、上記の「酒屋の譬え」「國領図式」を結合し、かつそれに ナレッジ・マネジメントの4本柱や、「マーケ4P&4C」も足してみましょう。

私が思いますに、ビジネスモデルは、次の4つから成ると思います。

    (1)集客力・売上・利益の源泉である「強み」

    • (1A)顧客に提供できる(すべき)「価値」

    • (1B)その価値を実現するための「資源」。これは更に細かく、 ナレッジ・マネジメント4本柱に下位分解できます。
      • People
      • Process
      • Technology
      • Content
      と申しますか、この「資源」の質・量・使い良さを維持するため、 ナレッジ・マネジメントは必須ですね。KMなくして、真の ビジネス・モデルは、あり得ません。

    (2)その資源の「調達・結合・提供・支援プロセス」。そのプロセスを企業横断的に 表現した「業界バリューチェーン」

    (3)この環境(2)において、強み(1)を最大限発揮するような

      (3A)「役割」。したがって自社のビジネスモデルを決めることは、 この役割を決めることであり、業界バリューチェーンを構成する、 自社ならびに関連諸プレイヤーの「役割分担」を決めることです。

      (3B)「戦略と行動」。これは「マーケの4P&4C」に下位分解できます:

      • 製品&顧客ミックス
      • 価格&ライフサイクルコスト最小化戦略
      • チャネル&利便性最大化戦略
      • 販促&コミュニケーション戦略

    (4)以上3項を反映した、かつ自社&業界&顧客の「業績構造」を示す、 一群の数式。

以上をまとめると[ (1)+(2) → (3) ] → (4)、という因果フローになります。


◆ ビジネス・モデル実現を阻む4つの難関

と、このように考えれば、2000年頃のベンチャーの方々のビジネス・モデルの実現が 難しかった理由も明らかですね。

第1に、自社の「強み」(1)の源泉を鍛え続けるナレッジ・マネジメントが難しかった。

第2に、自社と他者の「役割」(3)を決めたり、変えたりすることが難しかった。

当然です。ふつう自社の役割を決めるだけでもタイヘンですね。それ相応の特徴的な 強みが必要ですし、それがあればあったで、ライバル会社に真似されないよう 機密保護を厳格にしたり、追いつかれないよう KM をやったりしないといけない。

それだけでもタイヘンなのに、バリューチェーンの上流や下流にいる、 他の会社の役割まで変えるとなると、さらに難しさ数倍。何せ相手がいますから。

    「はい、貴社の役割は、来月から、こうですよ。 しっかり頑張ってくださいね」

なんてお願いして、素直に相手が言うことを聞いてくれるのか?  ふつう「ノー」ですよね。これまた「きわめて高い設計能力・説得能力・運用能力」が必要でした。

第3に「業界バリュー・チェーンを変える」と言ったって、 それが「誰の何の問題を解決するため」なのか、それが不明でした。

さいわい、それを考えた一例が自動車産業にあります。 * これは、そんなに悪くありません。むしろ私の目に付く範囲では、 最良の部類に属します。

でも当構想ですら「誰の何の問題を解決したいのか」という点で、 腰を抜かすほど大きな(まさにフォードが世にもたらしたのと同じくらい大きな) 進歩を世にもたらすものとは思えないのです。もちろん私自身、 そんな構想を出せてませんし、今後も出せると思いません。(だから本件からは今も逃げてます)

そして第4に「業界バリュー・チェーンを変える」と言ったって、 それは製品設計思想の制約を受けます。

なぜ PC の世界で、 コンパックやデルのような AT 互換機メーカーや、 カンタムやカノープスのような互換部品メーカーが世に多数生まれ、 IBM の HDD がデル機で使われたり、富士通の HDD が IBM 機で使われたりするのか? IBM が PC をオープン・アーキテクチャーで設計したからです。

自動車業界では事情が違いますね。ブツの設計思想が違うから、 バリューチェーンも違ってきます。詳しくは、國領先生の『前掲書』や 東大・藤本隆宏「日本型サプライヤーシステムとモジュール化」*を ご一読ください。

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Shuichi Ohta, 太田秀一 ************************************* /

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