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From : 経営コンサルタント・太田秀一 [顔写真と略歴]
To    : KM / CRM の PJ メンバーの皆さま、 CIO や各界の eBusiness リーダーの皆さま
(05/10/2002付、配信数 11,384+407)   Previous Return to List Next

CRM に正しく進路を取れ(4) People Management - eLearning 編
 − ASTD 2002 国際大会に寄せて

[ 1] People Management の総本山 "ASTD"の年次大会(5/31-6/6)
[ 2] People Management は、米国では戦場で、日本では天国で生まれた
[ 3] ASTD の主要論点 = eLearning, eChange, eMeasurement
[ 4] KM/CRM に必須の eLearning。事例は語る。
[ 5] eLearning に必須な方法論 "Instructional Design"。
[ 6] Instructional Design も、"Learning Objects" 対応に。新傾向
[ 7] Learning Objects が実現する"Learning by Building"。効果的。
[ 8] 教育工学の遷移:Behaviorism → Cognitivism → Constructivism。
[ 9] Learning by Building を阻害する "Behaviorism"。なぜ&どうダメか。
[10] よりによって「eLearning で延命」を図る "Behaviorism"。要・警戒。
[11] 企業 eLearning に向く Constructivism。その主要論点
[12] KM 専門家の Susan Hanley も昔は "Constructivist"だった
[13] Constructivism は常に OK か、Behaviorism は常に NG か?

[後記1] ASTD 報道番組に出演します!(有料インターネットTV)
[後記2] 当番組に「ご出演」「ご要望」をお願いします!
[後記3]「KM/CRM 1日コース」。今年もやります!
[後記4] 国際大学と慶応大学MCCで講義します。ご参加よろしく!

 皆さま、半年ほど発行を怠け、ご無沙汰しておりましたが、この間、 いかがお過ごしでしたでしょうか? 初めての方、はじめまして。

 発行人・経営コンサルタントの太田です。

 この間、私は「引っ越し」とか「同・記念パーティ」とかにドップリ 凝りまくっていたわけですが・・・

 ふと気づけば、ときは5月。KM/CRM の実践家の皆さまには、 重要な季節が、やってまいりました。



[ 1] People Management の総本山 "ASTD"の年次大会(5/31-6/6)
 なぜ5月が重要か。米国で「ASTD」が年次大会を行うからです。これ が実は、KM/CRM と大いに関係がある。

 要は、ASTD 流の People Management は、KM/CRM に役立ちそう。 だから私も今年は、彼らの大会に行きます。 (行くだけじゃないことは後出 [後記1])



[ 2] People Management は、米国では戦場で、日本では天国で生まれた

 ところで「People Management」って言うと、バブルの頃に流行った 「日本的経営=人本主義」を連想される人もおられるかもしれません。

 せっかくですので、ここで両者を、峻別しておきましょう。

 多くの方がご記憶のように、当時は、関西K大学や関東H大学の 先生方が、こんなことを言っておられました。

  • 「日本的経営は人本主義だから、米国より優れている」

  • 「米国流経営など簡単だ。業績が傾けば、すぐ人員解雇に走れるから」

 お分かりと思いますが、これはトンデモない間違いでした。

 私の「KM/CRM 一日コース」では 毎回ご説明してますが、米国社会は「ライフルを自由に持てる社会」ですよね。

 そんな社会で、数千人や数万人を解雇しても、会長に銃をぶっ放す社員が ただの1人も出ないような経営をやる。そんな芸当が「簡単」なんでしょうか?

 米国の People Management というのは、そんな「数千本のライフルで 自分が狙われかねない経営現場」から生まれたものです。 それは、もし間違っていれば、冗談抜きで、自分が死ぬんですね。

 つまり「検証」のステップが、すごくシビアなんです。 ですから効果のありそうな方法を本気で探さざるを得ません。

 一方、日本の「人本主義」は、K大やH大の「安楽椅子」で生まれた ものであり、それが間違っていても、誰も死ななくてすむんですから、 夢のようなお話でした。

 つまり「検証」のステップが、すごく甘いんです。 ならば効果なき絵空事になるのは当然で、 現にK大やH大の「人本主義経営学」の権威を顧問に戴いた 日本の大会社は、軒並、数千億円の赤字を出してますよね?

 ですから私は、米国の People Management を学びに、ASTD の大会に行くのです。 そこで学べる People Management は、インチキ臭い日本的人本主義と違って 「ライフルで鍛えられている」のですから、かなり期待ができますね。



[ 3] ASTD の主要論点 = = eLearning, eChange, eMeasurement
 では ASTD は、その People Issue をどう論点分割しているのか。 今大会のセッション一覧(注)から察するに、ほぼ次の通りですが、 とくに KM/CRM に直結しそうなのは、★印の 1)だと思います。

  • 1) 組織問題★:
    • 1A) eLearning        (下からの People 改革)→ 2)
    • 1B) eChange Leadership   (上からの People 改革)
    • 1C) eMeasurement      (その改革への定量評価)

  • 2) 個人問題: Critical Thinking や EQ など 新 Competency 開発

      → 創造性開発、キャリア開発 → 1)

  • 3) 専門家問題: 人事部や人事コンサルの新たな役割 →1)
(注) ASTD 2002 セッション一覧 *



[ 4] KM/CRM に必須の eLearning。事例は語る。
 ということで、KM/CRM に直結しそうな、1A)〜1C)。

 いずれも重要ですが、本号では 1A)の eLearning をとりあげます。 現に、これは、KM/CRM の分野で、成功すれば成果も大きいことが よく知られています。たとえば:



[ 5] eLearning に必須な方法論 "Instructional Design"。

 では eLearning における最大の主要論点は何か。

ズバリそれは方法論だ、と思います。ここを間違わないで欲しいですね。

  スタンフォード日本センターの安延申さんが 過日、日経デジタルコア(注1)のメーリング・リストで いわく[dc-home:89]

    「日本を見ますと、スタンフォードが e-learning を 日本でも積極的に展開するらしいという噂が流れた途端に おいでになるのは、「うちのサーバ使ってください」 「うちの回線はこんなに速いです」といった類の話ばかりです。

     実は、日本の e-learning が進みそうで進まないのは、(中略) やたら回線やコンピュータやソフトウェアにばかり目がいっている。 担ぎ手が通信屋やコンピュータ屋ばかりが目立つというところが 最大の問題ではないかと思っているのですが・・・・・。」

 用心しましょう。かつて明治政府は、「目に見えるモノや制度」の 輸入にこだわり、それらのモノや制度を「作った精神」「動かす精神」、 つまり「合理主義の精神」の輸入を怠った結果、昭和期になって、敗戦を 招きました。

 eLearning でも、「目に見えるモノや制度」より、 その設計思想や運営思想という「精神」に注目すべきであり、 それらの思想が色濃く出ている「方法論」に注目すべきです。

 逆に言えば、通信屋さんやコンピュータ屋さんの「頑張り過剰」 というより、方法論屋さんの「頑張り不足」、 ということですね。

 では、eLearning 分野での方法論は何か。この分野でそれは 「Instructional Design」(ID)と呼ばれています。

 そこで ID の基本(What と Why と 現状)を、一瞥しておきましょう。

  • まず ID とは何か
    • その定義は、次の通り。
        「教育理論や学習理論を利用して、カリキュラム・授業・ 教材コンテンツを実践的に設計・実装・評価する手法」
    • その構成要素は、たとえば次の通りです(注1)。
      • 学習者のニーズや会社のニーズを、どう分析するか?
      • 学習者の学習スタイルを、どう分析するか?
      • 教材コンテンツのあるべき主要論点をどう決めるか?
      • その提供順序をどう決めるか? (Content Sequencing)
      • これらの作業は、誰と誰が誰の協力を得て行うのか?
      • 効果の測定を、どう行うか?

  • では何故、ID が必要か。
    • まず、昔からある自明な理由としては、
        「自動車だって、機械設計 Mechanical Design なしに作れない。 ならば同様に、教育コースだって、教育設計 Instructional Design (ID) なしには作れないはず」
    • かつ昨今は、前出 [3]のシスコ社のように、 教材作成の主体が、研修部から現場に移ってきてます。そうなれば、 ID を習得すべき人の数は今後、グンと増えるはずですね。

  • では ID の需給現状は、どうか?
    • まず米国では、需給ともに盛んです。ASTD 大会でも例年、 ID の講座が、複数あります。
    • 日本でも、昨今は、関心(≒需要)が高まってきました。

(注1)  日経デジタルコアとは、デジタル時代にふさわしい世論形成・政策制定のため、 世のビジネス・リーダー、IT や法律の専門家、政策策定者が数十名、ほぼ手弁当で やっている、任意の会議体です。その主体は、メーリングリストでの議論と、ホームページでの 論説発表ですが、私は両方ともメンバーになっていて、 前者では不定期に参加し 後者の「日経ネット時評」では継続的に論説を寄稿しています。

 これらの運営費用は、日経新聞社や、 そのスポンサー企業が 出してくれています。この場をお借りし、一言、御礼もうしあげます。

(注2) 橋本秀紀「インストラクショナル・デザイン」2002年5月私信。 たいへん参考になりました。 また本号自体が、この私信に始まる 数往復のメール交換の産物であり、厚く御礼申しあげます。

なお同先生は

(注3) 2001年の ALIC の普及セミナーより



[ 6] Instructional Design も、"Learning Objects" 対応に。新傾向
 では Instructional Design (ID) の最新トピックは何か?

 たぶん「Learning Objects」(LO)だ、と私は思います。 現に ASTD 今大会でも 6/1、ID 30年の超ベテラン、ホートン氏が LO 指向の ID を、じっくり1日かけて講じます。 *

 では LO の基本(What と Why と 現状)を、一瞥しておきましょう。

  • まず LO (Learning Objects)とは何か。上記ホートン氏の 定義を使えば、それは「章毎、節毎・ページ毎に分割された 学習部品」のことです。

    ERPにおける「Business Objects」に思想が似てますね。 オブジェクト指向がこの分野にもやってきた、 ということです。

  • では何故 LO が有益か。「教材作成の効率が上がる」 だけでなく、より重要なのは「学習のスタイルが良くなる」 からです。
    • 教材業者は「章毎、節毎」の教材部品をマーケットに売り出し、
    • それを中間業者が組み立てて「コース」にしてマーケットに売り出し、
    • ユーザーは、
      • それら既製の「コース」を買って満足してもいいけれども・・・
      • それを別の「部品」で補ってもいいし、
      • 最初から「部品」だけを買って「コース」を自力で組み上げてもいい。 これが"Learning by Building" という、新しくて有益な学習スタイルです。

  • では LO の需給現状はどうか。
    • 今は、日米ともに、あまり普及しておらず、 [3]で前出の米シスコ社のような 例外が目立つくらいですが、
    • 将来は、LO 指向の Instructional Designが広まれば、 採用企業も増えそうです。



[ 7] Learning Objects が実現する"Learning by Building"。効果的。
 では上記 [5] の"Learning by Building"は、なぜ「有益」か? 答は「記憶に残りやすい」「システム思考を促す」「楽しい」の3点だ、と私は思います。

 Learning by Building を行う場合、学習者たちは「この部品は買うに 値するだろうか」「この部品にこの部品を結合しても ok だろうか」 と考えはじめ、文字通り、Build しながら、部品の中身や、部品どうし の関係を、勉強してしまうことになるのです。

 この学習スタイルは、とても効果的ですね。

  • 「記憶に残りやすい」。あれこれ「部品と部品の関係」「部品と 全体の関係」を考察することで、教材全体の構造イメージ =メンタル・モデルが、イヤでも脳みそに常駐するからです。 教材を自作し終えたときには、たぶん勉強の6割は、終わったも 同然でしょう。

  • 「システム思考を促す」。このように「部分と部分との関係」「部分と全体の関係」 を考える習慣は、システム思考の一部です。これは、良い自動車や家電製品など、 また良い戦略ミックスを組み立てるのに必須の能力であり、 だからこそ世の親たちは、積み木やレゴを、子供に与えてきました。

  • 「楽しい」。自分の作品を組み上げ、自己のメンタル・モデルを 視覚的に構造化し、かつ拡張するための勉強だからです。

 要するに「勉強がはかどる」ということですね。その実例を、ひとつ示しておきましょう。

 こうして、Learning Objects は、Learning by Building という、 効果的な学習スタイルを実現する。ならば Instructional Design 専門家も、 これに対応すべきですね。

 だからASTD 大会でも、今年は、ID 業界のエース、ホートンさんが、 LO 指向の ID を講じてくれることになりました。ここは見所です。



[ 8] 教育工学の遷移:Behaviorism → Cognitivism → Constructivism
 では、その学習スタイル"Learning by Building"の推奨者は誰か? Constructivism 派の教育工学の研究者たちです。下記★印の3)の方々。

  • (1)60〜80年代に流行した Behaviorism (行動主義)。
    • ネズミを走らせたりする、例のアレですね。
    • 彼らによれば学習とは、特定の「刺激」が外界から 来たとき正しい「反応」をとれるようにすることで、 それを促すのが「強化刺激」なるご褒美による「条件付け」 でした。
    • やや幼児向け。企業の eLearning には向きません【重要】

  • (2) その後に出てきた、Cognitivism(認知主義)。
    • 彼らによれば学習とは、日常の経験から自力で発見した ルールを他の状況にも応用できるようになること。
    • 人間のフローの情報処理プロセスに着目した思想です。
    • 頭のいい子供向け。

  • (3)そして最もホットなのが、Constructivism(構成主義)。★
    • 彼らによれば理想の学習と、は"Learning by Building"。 すなわち、
      • 学習者が自ら、
      • 新しく出会った事象・概念を、
      • 既存のコンセプト・マップの中に位置づけ(加え)、
      • もって、そのコンセプト・マップを「拡張 or 改造」すること
    • 既存の知識・経験ストックに着目した思想。
    • だから大人向けの学習、つまり企業 eLearning には、 最も向いた学派です【重要】

 要するに教育工学では、こんな変遷が起きている。この遷移図を、 しっかり頭に入れておきましょう。

    (1) Behaviorism → 2) Cognitivism → 3) Constructivism

(注)3派の概要については、たとえば次を参照



[ 9] Learning by Building を阻害する "Behaviorism"。なぜ&どうダメか。
 3派のうち、大人向けの eLearning、とくに KM 的な eLearning に 最も不向きなのは、Behaviorism です。

 何故か。彼らは上記の通り「人間の頭」を「ブラック・ボックス」と捉えて いるからです。

 ですから彼らは、人間の頭の内部で、どんな思考プロセスが動き、 そのプロセスをどんな既存ナレッジ左右しているのか、 その既存ナレッジを浮き彫りにするのにどんな質問技法が有効なのか、 まるで頓着しません。

 ひたすら彼らは、「人間の頭」の「外側」で何が起きてるか、を気にします。 どんな指示や環境刺激を与えたら、どんな反応が行動レベルで返ってくるか。 それらすべてが「観察可能」でなくてはいけません。

 したがって、Behaviorism が向くのは「旧式の軍隊」です。 「突撃! 退却!」「構え! 撃て!」などの 定型命令にぴっぴと定型反応できる定型兵士を育てるのに向きます。 現に、この学派の勃興期は60年代ですが、当時は米国も、ベトナム戦争を やってましたので、この手の「定型兵士」が大量に必要でした。

 そんな「定型軍隊、定型兵士」が必要な世界では、したがって、 Behaviorism が今も役立ちます。

 しかし今日、そんな定型軍隊や定型兵士は、米国防総省でも要らなくなったせいか、 同省の eLearning プロジェクトでも昨今、Behaviorism は、切られつつあります(注1)。

 さらに学界では、すでに80年代から、Behaviorism を叩きまくる Constructivist な 研究者が激増。今では「完全制圧」の感すらあります(注2)。

 たとえば当分野の学術誌のひとつ、"Educational Technology" では、どうか。

 『同誌』が、Constructivism を全面特集したのは、10 年前でした( 1991年の5月と9月の2回)。このとき、すでに論調は「Behaviorism から見て Constructivism は正しいか?」ではなく「Constructivism から見て、Behaviorism の自己革新努力は充分か? 答はノーだ」というものでした。

 その後、『同誌』では、Constructivism の浸透が進み、 しだいに「Behaviorism は正しいか」といった総論は減り、 いまでは「どんな Constructivism が正しいか」という各論に重点が移っています。

 こうして 10 年がかりで『同誌』は丸ごと Constructivism の牙城と化しました。

 他方、Behaviorism の牙城と思しき団体「ISPI」の匿名掲示板では、どうか。

 そこではいみじくも「Behaviorism は死んだのか?」なる議論が信者どうしでなされ、 そのスレッドも、最初の方は Behaviorism の実用価値を合理的に説く投稿があったんですが、 やはり最後の方は、Behaviorism へのファナティックな信仰告白を語る投稿が出てきて、 ますます同派の「凋落」を印象づけてしまいました(笑、注3)。


(注1) ヒューマン・バリュー社の2001年の報告による。ナイス。 *

(注2) グーグルで、次のキーワード群を入れてください。
constructivism cognitivism behaviorism +site:edu
*

(注3) ISPI (International Society of Performance Improvement) の掲示板。 *


[10] よりによって「eLearning で延命」を図る "Behaviorism"。要・警戒。

 では何故、こんなに「凋落」してしまった Behaviorism のことを、わざわざ私は 警戒しているのか?

 Behaviorism 陣営が「3つの延命策」をとっていて、その3つ目が 「eLearningへの転進」であるからです。

 彼らの延命策は、第1に産業界への転進であり、第2に、国外への転進です。

 たとえば米国では、当学派の重鎮「A 先生」が「B 社」を拠点に、「C 法」 という名の Behavioristic な ID を、盛んに産業界に啓蒙しておられますし、 日本では、その C 法を、某日本人 D 氏が「30年の実績」とか「米国のスタンダード」 と称し、熱心に日本へ持ち込んでおられます。

 まぁ彼らも、学界から産業界へ、本国から国外へと動き、新天地で延命を図っている わけですね。そのこと自体を、さして私は非難しません。たしかに格好わるくはありますが、 古今東西、それは「落ち武者族」の常套ルートであったのだし、ならば我々も、 彼らを手厚く歓待した「地方豪族」みたいな度量を見せるくらいは構いません。

 しかし彼らの第3の延命策が「eLearningへの進出」であるとなれば、 やや話は別でしょう。その「歓待」も表敬的なものにとどめざるを得ません。

 今の eLearning 技術は、素人には先進的に見えても、その実、まだ未熟ですから、 これで「インタラクティブかつ多シナリオ・多分岐なQ&A」に満ちた Constructivism な 教育をするのは、かなり手間がかかります。

 そんな未熟な今の eLearning 技術を前提とすれば、どうしても今は、Behaviorism 得意の「ストリーミング&コントロール」方式のほうが早くモノができてしまう。

 ちなみに「ストリーミング&コントロール」方式というのは「コマンド&コントロール」に 倣って作った私の造語で「一方向の Web ストリーミング + 単なる短答式テスト  + 細かい受講実績&成績管理」という意味です。要するに「一方向の Web ストリーミング」 という新しい皮はかぶってますが、その実態は、80年代の CAI に等しいですよ、ということです。

 もちろん、この方式は、昨年の ASTD 大会では、 教育上「有害」として十字砲火を浴びました。 いわく「Streaming はいかん。Asking が大事」と。

 また日本でも、KBSの國領二郎先生が、本号 5/10 版をご覧になった後に、 鋭くもいわく[kokuryofriends.697]

    「1) Behaviorism → 2) Cognitivism → 3) Constructivism
    の話は遠隔であるなしにかかわらず社会人教育には3)が有効だ、 という理解でよろしいでしょうか?

    これが今問題になるのは WEB という技術を使ってやろうとすると安直に1)が やりやすくて、3)を演出するのが難しいから、おかしなものが普及する ということかしら?

    実は最初「今さら Behaviorism バッシングしなくても」と思ったのですが、 確かに現実のWBT類を見ると、behaviorism 指向になってる気がします」

 しかし、こうした「ストリーミング&コントロール」型の「なんちゃって eLearning」は、 「見かけ」だけはライブ感が豊かですから、素朴な人や、「騙されたい」と願ってる人は、 すっぽり騙されてしまう。

 悲しいことですね。こういう人たちを見るにつけ、私は 『洗脳されたい』という本を読み返すのですが、警戒しすぎでしょうか?



[11] 企業 eLearning に向く Constructivism。その主要論点
 一方、Constructivism。

 昇竜の勢いですね。一部では「Emerging Paradigm」と呼ばれてますが(注1)、 "Educational Technology" 誌では、 「台頭中 Emerging」どころか「制圧中 Dominating」です([9])

 それもそのはず、[7]でも述べましたように、 彼らの目指す学習スタイル、"Learning by Building" には、次のような効果が あるからです。

    「記憶に残りやすい、システム思考を促す、楽しい」
     → 勉強がはかどる
     → eLearning の成功
     → KM/CRM の成功

 彼らの特徴は、Behaviorism と逆に、「人間の頭」の「中」で起きてることに 踏み込むことです。つまり人間が何かを学習しているとき、その頭の内部で、 どんな思考プロセスが動き、そのプロセスをどんな既存ナレッジ左右しているのか、 その既存ナレッジを、浮き彫りにするのに有効な技法、拡張させるのに有効な技法は何か、 をよく考えることです。

 彼らの主張する Tips は、膨大な数になりますが、その一部を、ここで記しておきましょう(注2)。

  • 教材開発時
    • コンカレント・オーサリングを行え。すなわち教師や生徒を、 開発の初期から巻き込み、彼らの意見を聴いたり、彼らを 著者グループの一部とせよ
    • 循環的な開発プロセス(非ウォーターフォール型)を採用せよ。 すなわち、要件分析→設計→実装→授業実行→評価、の プロセスを、行ったり来たりさせよ。
    • ラピッド・プロトタイピング法を使え。すなわち、 目に見える(できれば動く)プロトタイプを見せながら 要件分析を行え
    • どんな組織にも支配的なイデオロギーがある。それを 見極めよ。今まで誰のニーズが、一貫して無視され、 または一貫して神聖視されてきたか?
    • 学習目的の定義に関して
      • 学習者の「学習目的」を、会社の「教育目的」よりも優先せよ
      • 学習目的は、一部は学習中に顕現すると考えよ。全ての 学習目的が学習前に定義できるとは考えるな。
      • 同じ教科でも、学習者によって学習目的は複数通りある
    • 同一コンテントに対して複数の学び方を提供し、 学習者に選択する権利と責任を与えよ。 すべてを「Pre-Package」するな。 彼らに Packaging する経験を積ませよ。

  • 授業中
    • 問題解決を目標とさせ、それに必要な情報を探索させよ。 ただし、その探索範囲は、適切に教師が限定せよ。
    • そうして得られた情報断片群を、学習者自身にオーガナイズさせ、 そうして得られた解決策群の優劣を、学習者どうしに議論させよ
    • 彼らの既存のコンセプト・マップを「析出」させる技法として、
      • 認知を構造化する用語、たとえば「分類してみよう」「分析してみよう」 を多用せよ
      • 選択式ではなく自由回答式の質問を学習者にせよ。
      • ときには学習者に教師役をやらせよ
      • 学習者自身の経験や興味を活用させよ
      • 明快な表現を使うよう学習者に強制せよ。 自分の所見を曖昧に表現しているのは、 物事を理解していない証拠。
    • 彼らの既存のコンセプト・マップを「拡張」させる技法として、
      • 事件の起きた原因を尋ねよ、また、これから起きる結果を尋ねよ
      • 仲間のメンタル・モデルに挑戦させるよう、学習者たちを促せ。 そのためにも彼らどうしのQ&Aを活性化させよ。
      • 自分のメンタル・モデルを自己分析するよう、学習者たちを促せ。 事実により補強できる部分、できない部分を明確にさせ、後者を トリガーに、メンタル・モデルの再編を促せ。

  • 授業後

    • リフレクション(これは「反省すること」ではなく「 本日の授業で学んだ要素群を自力で再構成させること」です) には時間をかけよ。


(注1)[7]で前出 中原淳先生のサイトより *

(注2) 本件に関する参考文献は、後日、当ページに列挙します。



[12] KM 専門家の Susan Hanley も昔は "Constructivist"だった

 ところで皆さん、Constructivism と KM の両方に通じた人が いるのをご存知ですか?  Susan Hanley です。彼女の経歴を追跡してみましょう。彼女は、

 私自身、1998年に、AMS 時代の彼女のナレッジ・コミュニティ講演に接して以来、 他を圧して実践的と思いましたので、各所で紹介してきましたが(注2)、 今回、その彼女が学生時代、Constructivism をご研究だったことを発見し、 いろんな要素が頭の中で「結合できた!」と感じました。

 すなわち本号の骨子をコンセプト・マップ風に要約すれば次の通り:

    ID + (LO ← Constructivism)
      → Learning by Building
      → People Issue 解決の一助 → KM/CRM 成功の一助

 ASTD の今大会のもたらす知見「ID + LO」に期待しましょう。もちろ ん、その前後の文脈(Constructivism や KM)に止目した上で、です。


(注2)次を参照


[13] Constructivism は常に OK か、Behaviorism は常に NG か?

 もちろん Constructivism だって「満点」ではありません。 したがって「妥協の精神」が必要となり、場合によっては、 Constructivism と Behaviorism は「併用と使い分け」が 最適になるようです。

 第1に、Constructivism には「便利な標準テキスト」が、まだ ありません。[11]で述べましたように、 同派の先生方は、学術雑誌では、とても熱心です。 しかし「分かりやすくて実用的で、包括的な教科書」を 出す活動には、不熱心です。むしろ教科書の点では、 [10]で有害呼ばわりしてしまった、 Behaviorism 陣営のほうが、よっぽど頑張ってます。

 やや救いなのは、その「分かりやすくて実用的で、包括的な教科書」 の書き手が(彼らも実務家です。多くはコンサルであり、職業的な学者 じゃない)、自主的に Constructivism を学んで、その要素を、少しづつ、 その著書に、とり入れてくれてることであり、いまは市販の ID の教科書の 多くが、Behaviorism、Cognitivism、Constructivism 3派を混合してます。

 では「当面の妥協策」は何か。おそらく 当面の勉強は、それら市販の教科書でやるとして、 そのとき、Constructivism のどんな長所がどこに活かされているかを 確実に検知するため、[12]の「 Constructivism Tips 群」のようなリストを併用する、という ことになると思います。

 第2に、Constructivism 流の教育の理想は、いまの eLearning 技術 ではフルには実現できません。

 たとえば[12]でも書きましたように、 Constructivism な授業では、  「Learning by Building」を学習者に行わせるため、 彼らのメンタル・モデルを浮かび上がらせるような良い質問を、 講師が出します。ここまでは、eLearning でも可能と思います。

 しかしその後、その質問への学習者の反応を検知するステップは、 どうでしょうか? 回答内容だけでなく、質問された本人の表情・口調、 また、それ以外の学習者のつぶやきやうめき声まで検知したいとなると、 いまの eLearning 技術では、難しくないでしょうか?

 たとえば私は、 自分の「KM/CRM 1日コース」 では、視野を180度近く広げて、視野の片隅にいる受講生の表情変化だって 見逃さないようにしてますし、聴覚は子供の頃から実は動物的に敏感なので、 教室の片隅で起きた「つぶやき」ですら、聞き逃しません。その発生源は、 音のした方向から、直ちに検知できます。

 これらの受講生からの反応が全的に検知できてはじめて、Constructivism な 講師は、受講生各人の理解度、そして教室全体の 理解度をリアルタイムに推定し、それに応じて繰り出すヒントの「難易度」を 上下させる、という「芸当」ができるのです。

 では「当面の妥協策」は何か。おそらく 私が 自分の「KM/CRM 1日コース」でやってるように、授業を

  • 演習パート

  • 講義パート
に2分割することだと思います。そうなれば、eLearning は後者で 活かせます。

 第3に、Constructivism 流の教育は、eLearning かすると、 かなり手間がかかります。

 たとえば、上記[12]の後半にも書きましたように、 学習者どうしメーリングリストで、Q&Aを交換するのは、 各人のコンセプト・マップの「拡張」を促すのには良いのですが、 その会話がヘンな方向に行ってしまっては、台無しですね。

 したがって講師には「講義当日だけでなく、その前後も Q&Aのファシリテーションをしてください」とお願いしなければ いけないでしょうし、そうなると講師も「うわー、そいつはタイヘン だなぁ」なんて思ってしまうかも。

 では「当面の妥協策」は何か。追加の料金を、講師に払うことです。 そもそも、あなたの雇う講師が、Constructivism の哲学をお持ちで、 上記[12]でリストアップしたような特殊な技能も 駆使できる方であるなら、当然、講師料は、基本料金の段階で、 他の講師より高くて当然です。

 さらに、その講師に「講義当日だけでなく、その前後も Q&Aのファシリテーションをお願いします」とお願いする、 ということは、その分の追加料金も、当然、必要です。 その分の教育効果は確実にありますので、これは、払った方が 正解ですね。あとは、その原資の捻出でしょう。

 さらに第4に、Constructivism 流の教育は、初学者には向かない かもしれません。たとえば、[5]でも前出の 日経デジタルコアのMLで 早稲田大学客員教授の中野潔先生 *が、本号の 5/10版を ご覧になっていわく [dc-home:84]、

    「"Learning by Building"は、本当に何かが学びたいと 思っている人、あるいは、自分に足りないことを内省して わかっている人には、有効だと思いますが。

    小生は、頭が古いのか、新卒3年目ぐらいまでを考えると、 "Learning by Building"の意味があまり、ぴんときません」

 これは全く、お説の通りで、そもそもConstructivismは「学習者の 頭の中の既存ナレッジ」を活用しましょう、 という思想なんですから、その「既存ナレッジ」が頭の中にない 人たちには、あまり向きませんよね。たとえば、私が新入社員時代、 やや Constructivism 風のケース演習を経験したときも、同様でした。

  • 未熟者どうしグループ討議をやっても、あんまり 良い答が、Build できないなぁ。(当時の感想)

  • しかし長期的には良かった。キャリアが上がるにつれ、 異なるスキルマップを持った人からの協力は欠かせない。 その習慣を、若い頃から付けるのには有益(今の感想)

 要するに、Constructivism と Behaviorism は「一長一短」。 Behaviorism が向いている部分があるなら、それは遠慮なく使えば よいのであり、要は「プラグマティズムの精神」での「併用と使い分け」 が大切ですね。

 実際、当分野で調査&コンサル実績豊富な藤本徹さんいわく [e-learning:0124]

    「Constructivism は大まかに言って、Behaviorism的な知見も 必要に応じて取り入れることは当然あると理解しています。

    具体的な学習活動の中にはBehaviorismの考え方が 有効な場合もあるわけなので、それにも柔軟に対応できるのが よいConstructivism(?)だと勝手に解釈してます」

 この「プラグマティズムの精神」を、本号の結論としておきましょう。(^^)


・・・・ということで以上、たいへん長くなってしまいましたが、 ASTD 国際大会へむけた「予習特集号 - eLearning 編」をお届け いたしましたが、いかがでしたでしょうか?

 結論のみまとめますと、前節末尾のように「LO 指向の ID が今年は 重要。Constructivism や KM のコンテキストも念頭に」ということ になりますね。

 ここまでご一読いただき、どうも有り難うございました。m(__)m


[後記1] ASTD 報道番組に出演します!(有料インターネットTV)
http://www.newsicast.tv/
 ということで「日本の KM/CRM」にとって、ASTD の今大会は必須と 私は思います。だから当然、私自身、それに参加します。

 しかし単に「参加する」にとどまらず「解説委員」もやります。

 というのも今大会の模様は、 米 Newsicast 社 *により後日、 インターネットTVで報道される予定なのですが、 その番組で私は「解説委員」かつ「監修者」として登場予定。

その監修の「目的と方針」は目下、次の通り。

  • 目的: 米国の People Management 最前線を、3時間で伝える!

  • 方針:
    • KM/CRM に必須な3分野に注力し、 主要講演を網羅
    • 各講演の、狙い・骨子にとどまらず、 できるだけ講演者の将来意向をも紹介し、 当分野の今後を占える内容とする
    • 全体の「まとめ」を30分ほどで私が行い、 エグゼクティブ・サマリーに代える。

 ふと気づけば私は昨秋より、大前研一氏率いる衛星TV局「ビ ジネス・ブレークスルー」で 60分単独講義の映像デビュー *を、数回にわたって 果たしていますが、今回は、インターネットTV局で初デビュー。

 さいわい今回も、プロのカメラマン、そして米国のTV局でご活躍の プロのキャスターのお世話になることになりました。有り難いことです。 私も根性入れて準備します!



[後記2] 当番組に「ご出演」「ご要望」をお願いします!
 ということで・・・

 当大会にご参加予定の皆さん! 現地でお会いしましょう。 よろしければ私と一緒に、当番組に、ご出演ください。(^^)

 また当大会にご参加予定でない皆さん! 次をご覧の上、 「どれ」を私に紹介してほしいか、 ご要望をメールでお寄せくださいませ!

 できるだけ皆さまのご要望に合った、良い番組を作りたいので、 ご要望を、どしどしお寄せくださいませ。



[後記3] 「KM&CRM 1日コース」。今年もやります!
 その「準備」の余勢を駆って、今月は「KM/CRM 1日コース」を行います!

 eLearning や、Change Leadership や、Human Capital Measurement に関する新知見が炸裂!するはずので、ぜひご検討いただきたいと 思います。

 日程は次の通り

 その特徴は次の通り。どうぞご期待ください。

  • 米国流 KM/CRM 方法論のエッセンスを、1日で圧縮
    (ただし分量は、パワーポイント250画面)

  • かつ"Learning by Building"。グロービスご協力の 「ケース演習」があり、それをチーム単位で討議 することで、自力で「分析と提言」という行為を 行っていただけます。

  • 今年から全教材を、事前にオンライン提供。 しっかり予習できます。

 過去の受講生の声は、こちら!

 過去のクラス風景は、こちら!

 お申込は、こちら! *



[後記4] 国際大学と慶応大学MCCで、講義します。ぜひご参加を。
 6月と7月、次のマネジメント教育機関で、CRM を講じます。

 私も大学院での講演は、2000年のミネソタ経営大学院のとき以来(そ の節は國領先生、お世話になりました)ですので、気合い、入ってます。

 また(2)は公開型ですので、学外の皆さまもご参加いただけます。 私も出講しますが、何よりの目玉は、

  • 「トヨタ・ソニー・アスクル」などの著名企業の マーケティング戦略の「現在」がお聞きになれるほか、

  • KBS現職教授の池尾先生の、双方向ファシリテーションの奥義を ナマで学ぶチャンス。同時にそれで各人が"Learning by Building" を実体験できます。

ぜひ皆さまも、上記(2)の池尾先生のコースをご検討くださいませ。


『ECスクエア通信』フッター

[最後に] ご一読ありがとうございました。本号はいかがでしたでしょうか?

当ニューズレターは、 国内きっての専門家が KM/CRM を、次の「カテゴリ体系」で 論ずるもの。関心に合いそうなトピックを、 適当にクリックしてみてください。

トピックス一覧(テーマ別目次):MyPRG_Called_EC2_Topics.html
(0) 入門
全体図, 定義 ( ナレッジ", KM, CRM), サマリー( KM, CRM )
効果実測例 ( KM, CRM), なぜ有効か( KM, CRM
(1) 戦略
今後にご期待ください。それまでは こちらを(11/07 改訂!)
(2) 知識プロセス & テクノロジー (3) ピープル & テクノロジー (4) 業務プロセス & テクノロジー
Marketing ( 3 事例で学ぶ 33 の法則, CFAR/CPFR),
Sales & Logistics ( PRM, JIT 設計販売, WebEDI)
Service
(5) プロジェクト (N) 番外編: 重要イベント

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