[1] KMの焦点は「成果」を出すこと
近年、ナレッジ・マネジメント(KM)が注目されている理由は、「
ナレッジが尊いから」ではありませんね。2年前から述べておりますように、
「成果が数字で出てるから」です。
では何故、こうした成果をKMが生んだのでしょうか。それは、ナレッジが
ある種の成功法則だからだ、と思います。
三段論法の枠組みで考えれば、ナレッジとは「大前提」のようなものだ、と
定義できます。たとえば、
- 大前提: 「人間は必ず死ぬ」 (一般法則=ナレッジ)
- 小前提: 「太田は人間である」(個別情報)
- 結論: 「だから太田は必ず死ぬ」
この小前提には「太田」という固有名詞が入っていますよね。こうして「いつ」
とか「誰」とか「何を」などが入っているのは、みな小前提=情報である、と
考えてください。
一方で大前提の「人間は必ず死ぬ」というのは、その人間が太田であろうが山田であろうが、
必ず確率100%で成立する、一般性の高いものです。
言い換えれば、こういうことです。
- 成果を出すには行動が必要であり、
- それには意思決定=結論が必要であり、
- その結論を得るには、次の両方が必要であり、
- 小前提だけたくさんあっても、良い結論が出てくるとは限らない
さらに議論を広げると、ナレッジにも2種類ある、と思います。
- 第1種のナレッジは、上記の「大前提」で、万人が認める一般法則です。
その一般性は100%。いつでもどこでも成立します。
- 第2種のナレッジは「経験則」。つまり「小前提から大前提に昇格中」のもの。
その一般性は100%とまではいきませんが、ものによっては高水準です。
とくに第2種のナレッジは重要で、世のKM成功事例では、ここで
差をつけた会社が多いようです。たとえば米ゼロックスのサービス部門。
ここでは、サービスマンたちが日々、次のような自慢話を、交わし
いたそうです。
こうした自慢話は、ボブなりトムなりが、ある日ある時に経験した
「1回限りの具体的な事象」ですから、一般性はゼロですね。
小前提=情報のレベルに、とどまっています。
しかし、その自慢話を聞いた仲間たちが、その修理方法を真似し、
いろんなお客さんで成功体験を重ねていけば、時とともに、その修理方法
の「一般性」はだんだん増えていき「経験則」つまり上記の第2種の
ナレッジとなります。
こうした「経験則」をより多くの社員が実行すれば、より多くの故障が直り、
より多くのお客さんも喜んで、会社が出す「成果」も増えていきます。
だからこそ産業界で、KMが盛んになりました。
[2] KMから成果を出すメジャメント体系:バランス・スコアカード
ではゼロックスの成功事例はそれで良いとして、他の一般企業がKM
から「成果」を出すには、どんなメジャメント(≒評価項目)体系が
良いのでしょうか。答を先に申しますと、次の通りです。
- ハーバードのカプラン教授らのバランスド・スコアカード手法
同先生が同手法を公表したのは、92年の "Harvard Business Review"であり、
これは私も95年、
前著『企業を変えるグループウエア』日経BPの第2部で、
しっかり活用させていただきました。
それから4年、この手法を同先生は、各国の産業界と学会へ、
かなり上手に広めてこられたようです。
もちろん、この普及の動きは、管理会計の世界に留まっていません。
最先端の IT 経営手法の世界にも、広がってきました。
- 本年4月、シカゴで行われたSCMコンファレンスでは、
約半数の講演者が同手法を「使え、使え」と言っていました。
- そして実は、[3][4]で後述の通り、CRM分野でも、
同じことが既に起きています。
ではバランスド・スコアカードとは、どんな手法か。特徴を2点だけ
ご紹介しておきましょう。
- 第1に、重要管理項目を、次の4群に分ける
- 結果変数たる(1)財務変数群、
- 政策変数たる(2)顧客変数群、(3)自社プロセス変数群、
(4)イノベーション&学習変数群
- 第2に「政策変数(2)(3)(4)→結果変数(1)」式の因果フローを、
各所で明示する
うち(4)がKM用の項目であり、それが(2)(3)経由、(1)を動かせば、
KMから「成果」が出る、というわけです。
もちろんバランスド・スコアカードは、万能では、ありません。
たとえば
2年前、私は、KBSの伏見先生の図式も参考にしながら、
世の企業がマネージすべき変数を、次の3群に分け、うち政策変数
を制御することが経営管理の中心テーマだ、と述べましたが、
その3群と上記4群との対応は、次の通りで、明らかに「環境変数」
群への注意が、バランスド・スコアカードからは、抜け落ちています。
- 結果変数(制御不能な従属変数)・・・(1)
- 環境変数(制御不能な独立変数)
- 政策変数(制御可能な独立変数)・・・(2)(3)(4)
多くの経営理論の常として、この手の限界を限界としてキチンと
分かってないと、バランスド・スコアカードも「怪我の元」になりますが、
逆に、この手の限界がチキンと分かる人にとっては、バランスド・スコアカードは
「かなり便利な部分解」だと思います。
[3] KMによる「政策変数」の拡張: (3)群 → (3)群+(4)群
では世のKM実施企業では、(2)(3)(4)の世界で、どんな変数群を
使っているのでしょうか。それを本稿では「これからはCRM」
ということで、コールセンター分野に絞って論じました。
当分野では、せっぱ詰まった顧客から「待ったなし」の苦情や質問が
来ますから、現場の皆さまには、大きな負荷がかかります。勢い、彼ら
の処遇には、細心の注意が求められ、こと評価制度では、多くの工夫が
行われてきました。
その究極の大項目は「顧客満足度」でしょうが、その下につく中項目
や小項目としては、長年、次のものが定番でした。その多くは(3)でした。
- 受信件数
- レップや回線のビジー率
- 待ち行列の長さ、顧客待ち時間
- 待たせてる間に電話を切った率 (Call Abandon rate)
- 初回の電話で問題解決できた率 (First Call Resolution Rate)
そして、これらの測定値・測定項目の使い方も、長年、各社が磨いて
きました。たとえば
- ケミカル・バンクでは、これらが定期集計され、かつ所定の
許容水準を測定値が超えると、警告チャイムがセンター全体に流れます。
- また電話関連機器によっては、シミュレーション機能があり、
要員数や回線数をへらすと、待ち時間が何割ふえるかを予見できます。
ところが97年、一部の専門家たちは、広範な実証研究をもとに、
こうした「定番管理項目」を、次のように批判しはじめたのです。
「それは(古代ローマの)ガレー船経営モデルである。古い」
「70件のケースを分析したが、このモデルでは効果が得られてない」
ここでコールセンター分野でも、多くの企業がKMを始め、当分野で
のメジャメント革命が決定的となりました。KM派のコールセンター
専門家の一人、アイビー・メドウズ氏は、次の管理項目を勧めています。
- 投稿されたナレッジの数
- 使用されたナレッジの数
- ナレッジ・ベースを使って回答された質問数
- KMプロジェクトの実施回数
要するに、バランス・スコアカードの枠組みで申しますと、
- KM前: (3)群の自社プロセス変数群、
- KM後: (4)群のイノベーション&学習変数群
が主たる管理項目なわけですが、おそらく現実的には、KM革命で、
管理項目が「新旧交代した」というよりは、管理項目が(3)だけから
(3)+(4)に「拡張された」と考えるべきでしょう。