[1] 飛行機を「半年で個別開発する」という数値目標
BPR(注)を成功に導く最大のCSFは、野心的な数値目標です。
注)BPR http://www.CIO-cyber.com/pj/ec2/yogo.html#BPR
これがあるから、いまの制度、いまの文化、いまのシステムを「捨て
る」気になれる。それはボーイングでも同じこと。あの7X7を「半年
で個別開発しよう」。これが彼らの目標でした。 ‾‾‾‾
すごいですね。これが家電やパソコンなら誰も驚きませんが、飛行機
の場合は、商談ごとに個別カスタマイズが家電の比ではありません。ま
た、この「半年」というのは、顧客との仕様ネゴを含んだ期間です。
この目標を実現するため同社は、BPR用語で言う【マス・カスタマ
イゼーション】をすることに決めました。これは「カスタム化作業を半
自動化すること」です。
これで製品開発プロセスも激変します。同社でも、設計ステップ(2)
と製造準備ステップ(3)の所要時間が「ゼロ」になります。
現在: 仕様ネゴ(1)→設計(2)→製造準備(3)→製造(4)→出荷(5)
将来: 仕様ネゴ(1)→製造(4)→出荷(5)
注) 同社・フレデリック氏が用いた、もっと美しい図は、
『自動化技術』97年8号に所載の拙稿 p.43にあります。
要するにBPRです。「流れを早くする」のではなく「流路そのもの
を激変させる」。フレデリック氏の言葉では、次のとおりですが。。。
「新製品を構成定義・製造するプロセスを、根本的に再考し、
抜本的に単純化すること」
マイケル・ハマー氏の「BPRの定義文」そのものですね。
ちなみに同社の話から離れて一般論になりますが、いま注目すべき
動きは【BPR復活】だと思います。私は本年、米国のEコマース関
連のコンファレンスに3回行きましたが、どこでもBPRは「花盛り」
でした。。。何故か。。。インターネット、そして後述のPDMやE
RPなど、最新技術の洗礼を受け、BPRが「前よりずっと強力」に
なったからです。
[2] そのゴールを実現するための「バリアント管理」
では話をボーイングに戻しまして「カスタム化を半自動化する」には、
何が必要でしょうか。。。答えは「バリアント管理」です。
「バリアント」は「オプション」の組み合わせから生まれます。自動
車の場合でも、私はオートマがいい、パワステがいい、何々がいい等々
の要望に応じ、いろんな「バリアント」が生まれますよね。
飛行機になれば、話はもっと大きい。いろんなニーズを、お客さんが
出す。それに対して「いや、ここはこの現行オプションで勘弁してくだ
さい」式の仕様ネゴはやるとしても、結果として、採用オプションは商
談ごとに多様になり、そこで多様な「バリアント」が生まれます。
この「多様性を管理」しないと、マス・カスタマイゼーションは不可
能です。だから同社は、次のような施策を立てました。このすべてが、
バリアント管理=多様性管理を実現するためのCSFだと思います。
(1) 製品情報のソースを単一化する
・部品表も単一化する
(2) 製品構成管理を合理化する
・紙の図面、紙の部品表は、金がかかるし間違えやすいし、
アップデートに耐えられないので、全廃する
(3) 商談を3タイプに分け、製品のカスタム化を行う
・標準型式
・現行オプションの活用で対応できるタイプ
・新規オプションを作って対応するタイプ
(4) 資材調達も3タイプに分け、違う方式で行う
・極めて単純なタイプ
・単純タイプ (カンバン方式)
・複雑タイプ (MRPII方式)
ちなみにこのうち(1)(2)は狭義のIT施策で、(3)(4)はBPRである、
そういう点にも、ご注意いただければ、と思います。
[3] バリアント管理を実現するための【PDM+ERP】
そして、これらの施策を実行するため、同社はPDMを入れました。
PDM(製品データ管理)とは、乱暴に言いますと「図面管理ソフト
を極度に発展させたもの」です。
図式的に言いますと、こんな経緯でできたのがPDMです。
・CADを入れて、設計作業はラクになったが。。。
→しかし似て非なる図面がたくさん生まれ、管理に困り、
→そこで図面管理ソフトが登場
→さらに、それが発展し、いろいろな機能がついてきた
・図面だけでなく技術文書も管理する、
・設計変更のワークフローも管理する
・製品構成(製品?部品間の親子関係など)も管理する★
・新製品プロジェクト自体も管理する
なおPDMについては、次の場所でも詳説しておりますので、よろし
ければご覧ください
http://www.CIO-cyber.com/pj/ec2/yogo.html#PDM
同社におけるPDMの最大の使用目的は、このうち★の「製品構成管
理」だったそうです。以前は、これがなかったため、次のような情報管
理がしにくかった。
・製品→機構→部品といった親子関係の管理
・オプションの有無で生じる「バリアント」の管理
・世代管理や変更履歴管理
だから同社は、PDMの製品構成管理を使うことにしたわけです。
ついでに申しますと、2年前のCALS旋風時に囃された「ボーイング
成功事例」のお話は、みな、このPDMが入る「前」の話であり、要す
るに「ボーイングの91年段階」の話だったわけです。それを95年に
もなって「CALSだ、CALS」「最新、最新」と日本人は言ってい
たわけですが、その間、ボーイングはPDMを入れて、さっさと「95
年段階」に発展してしまいました。
PDM以前とPDM以後。この区別が重要です。
一方、PDMだけで、マス・カスタマイゼーションは、できません。そ
れを、ERP(基幹業務システム)と連動させる必要がある。なぜなら、
上記[1]の図式において。。。
現在: 仕様ネゴ(1)→設計(2)→製造準備(3)→製造(4)→出荷(5)
将来: 仕様ネゴ(1)→製造(4)→出荷(5)
将来は、顧客とのネゴ結果をシステムに入れれば、その情報が、ある種
の自動設計を経由、直に製造(4)のシステムに流れることになり、そこ
で資材の自動発注その他が行われることになるわけですが、この(4)の
世界をマネージしているのは、PDMでなくERPだからです。
ということで「マス・カスタマイゼーションをやるには、【PDM+E
RP】の連携が必要だ」。そう考えてボーイングは、蘭バーン社のER
Pソフトを入れました。
しかし本便では、この件、これ以上は説明できません。残念ながら、情
報がないからです。余談ですが以下、その事情をお話しします。
コンファレンスの基調講演の後、厚かましくも私はフレデリック氏に、
こう聞いてみたのですが。。。
「PDM側の話はよく分かったのでERP側の話をして下さい」
彼いわく、
「僕は最近、ボーイングからバーンに移ったんだ。だから今、ボー
イングは『我が社』じゃなくて『お客様』なの。ちょっと僕から
話はできないね。この人にコンタクトしてみたら」
こうして彼はボーイングの広報担当の人の電話番号を、名刺の裏にさら
さらと書いて、渡してくれました。
しかし私は、PDMコンファレンスの直後にDISA(注)コンファレ
ンスに行く予定だったので、イボンヌさんには電話せず、実は、今日に
至るも、そのままとなっております。すみません。
注)http://www.CIO-cyber.com/pj/ec2/yogo.html#DISA
というわけで「ボーイングにおけるERP導入」の話は、今はまだでき
ません。そのかわりDISA聞いてきた「ウォルマートのCFAR構想」
の話を、次回、させていただきます。このCFARは、いうなればEC
Rの後継プロジェクトであり、かなり注目に値します。
その次号は、9月15日ごろ配信します。