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太田秀一 「eラーニングをマーケティングで使う」補遺
改訂日: 2003年11月24日

For: 『日経情報ストラテジー』2004年1月号


注1)  以下、当事例についての情報源は、次の2点。
    [1] Robert Aughenbaugh (2002), 'an Online Sales Training Program the HP Way', presented at ASTD 2002
    [2] Aughenbaugh 氏が属する Via Training 社のサイト。なお同社は長年、 HP社の研修の電子化を支援している。いうなれば、 "House Agency" の教育版に近い会社である。
 拙稿で述べた「質問演習」の記述は、[2b]をベースにし、 かつ説明を単純化するため [2b]の文章に多少の表現上の変更を加えたもの。 したがってそれは、HP 社の実態とは乖離している。 その乖離巾が過大であったとすれば、申し訳ない。 その責は100%筆者にある。

 なお[1]によれば当事例の第4の成功理由は、学習者へのインセンティブのようだ。

  • 修了記念品。同社ロゴ入りグッズ(マグカップやTシャツなど)や、 同社の製品。これらが「楽しかった(嬉しかった) 学習経験、ひいては学習内容を思い出すトリガー」になれば効果的。
  • 認定証や認定バッジ。これも同様。
  • より高度な専門情報や専門家へのアクセス権。 これは更なる問題解決能力、つまり更なるキャリアにつながる。
  • オンライン・ゲーム。これは若者を惹きつけ引き留める手段として、 昨今は新製品キャンペーンでも使われるようになった。 別稿中段のダイヤル社 "Coast" 事例を参照いただきたい。


注2)  ただしハンバーガーなど日用品の世界ですら、テレビ広告オンリーではなく、 ネット広告も併用することで、広告効果が上がると主張する研究もある。

 最も有名なのが、米国のインターネット広告業界団体、 IAB (Interactive Advertising Bureau)の XMOS (Cross Media Optimization Study)であり、 その2003年2月10日の発表によれば、 下記4社についての広告媒体購入費におけるネット比は次の通り。

     現行値 推奨値
    Colgate7%11%
    Kleenex3%10%
    Dove2%15%
    McDonalds1%13%
 なお、各第3列の推奨値は、実験から得たもの。 たとえばコルゲート社で行った実験では、広告媒体購入費におけるネット比を、 0→7%、そして7→11%と増やしたら、購入意向は、3.8%、そして4.3%増えた。 他も同様であった。

 では何故、テレビ広告を減らしてネット広告を増やしたら、 購入意向は増えたのか? 概念的には下図の通り。

 要は、テレビの限界効用がゼロ近くまで逓減しているのに対し、 ネット広告の限界効用はまだ高いから、である。つまり テレビ広告をこれ以上増やしても、テレビ愛好家からは「分かってるよ」 と言われるだけで、追加利得はない(知名率や理解率はこれ以上増えない)。 むしろネット愛好家(のうち一部は全くテレビを見ない)向けの ネット広告を増やすほうが追加利得は大きい。

 逆に言えば、将来、ネット広告の限界効用も、いまのテレビと同様、 ゼロ近くまで逓減するだろう。(テレビ・対・ネット)の 最適な均衡点が最終的に分かるのは、そのときである。


注3)

 ただし、技術集約性と単価が高いだけでは、 セールス部隊への eLearning に適した商品であるとは言えない。

 「技術隠蔽度」も重要と思う。 つまり技術集約性が高くても、メーカーが努力して、 技術の複雑性をユーザーの目から(良い意味で)隠蔽し、 分かりやすく使いやすい商品にできたら、どうであろうか? また、量産化にともない低価格化も進行し、(これまた良い意味で) 気楽に買えるようになったら、どうであろうか?

 このように成熟期では、技術集約性は高いまま、 技術隠蔽度が上がり、価格が下がることがある。 その極端な例が、スーパーで売っている100円の石鹸であり、 こうなると、いかなる eLearning も不要になる。

 一方、技術集約性が高いまま、技術隠蔽がほとんど進まない 商品も世の中にはある。半導体などの電子部品がその例ではないか。 そういう場合には、eLearningを行うとしても、その重点対象は、 セールス部隊からインフルエンサーへ変わることになろう。 (本件、 別稿後段の 3D Labs 社事例をご覧いただきたい


注4)

eLearningの教材開発においては、コンテンツ設計もさることながら、 インタラクション設計が重要である。


注5)

 一般に「売れるセールスマン」は、説明より質問が上手だ。

 ところが肝心の新製品発表の直後は、ふだんは良い質問をしている 有能セールスマンですら、つい嬉しくなって、新製品の特徴をペラペラと 説明してしまい、ふだんの質問技法が引っ込んでしまう。 (本件、 別稿上段のターゲット・マーケティング社らの調査結果をご覧いただきたい


注6)

 とくに XML を使って、コンテンツとレイアウトを分離し、 さらに後者を、PC 用と携帯電話用の2通り用意すれば、 2つのメリットがあると思う。

 第1に、学習の場所と時間を最適化できる。 たとえば法人セールスや訪問セールス職は、 客訪時に、エレベータ内や玄関前で、 右手にアタッシュを下げたまま、 左手で携帯を開いて、必要な学習ができる。 顧客敷地内だし、商談直前なので、精神も集中し、 学習効果も高くなる。

 第2に、同じ内容を、2通りの物理環境で勉強できる。 事務所でPCから学んだことを、現場で携帯から復習してもいい。 送り手から見れば、ワン・ソース、マルチ・ターゲットだが、 受け手から見れば、ワン・コンテンツ、マルチ・セッティングだ。

 同じ内容を複数のシナリオで学ぶと学習効果が上がることは、 よく知られている。同様に、同じ内容を複数の物理環境(セッティング)で 学ぶことでも効果は上がるのではないか。 現に「読書」という学習形態ひとつとっても、 セッティング(場面・媒体・書式)が変わると、 注意をひく論点も変わるように筆者は感じる。

  • 自室で読んだときと、旅先で読んだとき、
  • 画面で読んだときと、紙で読んだとき、
  • 原書で読んだときと、邦訳書で読んだとき、

 ただし「ワン・コンテンツ、マルチ・セッティング」は XML の 専売特許ではない。昔から教室では、同じ教育内容を、人々は、 少なくとも4つのメディア(教科書+黒板+教師+生徒仲間)から 学んでいた。それもインタラクティブに。

 思い出してみよう。教師が質問する。 ぱっと黒板や教科書を見る。立って答える。周囲の仲間が 振り返って自分を見る。彼らの椅子が動く音、彼らの呼吸が変調する音、 つぶやく音、ささやく音、うめく音。そして振り向く顔・顔・顔。 これらの多数の表情や音をヒントに、 回答しながらその方針をダイナミックに変えたりした。

 静寂なスタジオ内で教師が淡々と講義している eLearningが、 なぜ面白くないか、eLearning 盛んな今日でも、 なぜ Blended Learning が有益なのか。なぜセサミ・ストリートは、 わざわざ教室や台所を舞台にしたのか。コンテンツだけでなく セッティングが重要だからだと思う。

セッティングが違うと、同じコンテンツでも、 脳内で起きる刺激の種類や強度が異なるのではないか、 それが新たな発想を生むのではないか。 だとすれば、ワン・コンテンツ・マルチ・セッティングを 意識して活用し、セッティングを多様化することで、我々は、 より高い学習効果を得られるのではないか?


注7)

 テレビ広告の翌日想起率(注8)は、過去35年で7割も下がった。 2000年時点では、9%である。

 さらに「翌日想起率」が悪いということは、 「実態」がもっと悪いことを意味しないだろうか?

  • 翌日で9%なら、2日後や3日後はどうか? また購入時点では、どうか? もっと低いはずである。
  • 想起率で9%なら、購入意向喚起率はどうか? もっと低いはずである。
  • 2000年で9%なら、2004年ではどうか?  上図のカーブを延長すれば、もっと低いはずである。

 また、あなたの会社ではどうか?   テレビ広告費は、対売上比で見て、 35年前と比べ7割くらい減っただろうか?  減ってないとすれば、誰の何が理由か?


注8)

 正確には「昨晩のテレビ広告に1回だけ出てきたブランド名を 助成抜きで想起できる大人視聴者の割合」のこと。短くは "Day After Recall" と呼ばれる。 より厳密な訳語は「翌日再生率」と思われるが、 一般には分かりにくいので「翌日想起率」としてみた。

 この数字は、ブランド好感度や同・購入意向の先行指標なので、 たいへん重要ではある。

 さらに、この数字を見た上で、 どんな対策を打つかは、もっと重要である。 田中洋(2000),「広告効果測定の理論」 (日経広告研究所編『広告に携わる人の総合講座・平成12年版』 日本経済新聞社所収) によれば、翌日想起率「だけ」を改善しようとするあまり 「ブランド名連呼型の TV CM を作る」という 間違った対策に走ってしまったケースも多かったそうだ。これでは、

  • 肝心の好感度や購入意向喚起率が上がりにくい点で、 局所最適(本末転倒)の好見本だし、
  • 「広告媒体として TV を使う」という前提を壊してない点では、 微温的である。

 翌日想起率が低いという「問題」が存在するからには、 「対策」は必要である。 ただ、その対策の設計思想は、全体最適と抜本的見直しであるべきだ。 本件は、近日中に、 こちらの別コーナー で考察したい。

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Shuichi Ohta, 太田秀一 ************************************* /

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